彼があなたを手放せなくなる〜しごと男×合わせる女〜(前編)

彼は、いつも「仕事が忙しい」と言います。
会議や出張も多く、週末も誰かと打ち合わせをしているみたい。
だから、いつも彼のスケジュールに合わせるのは私。

ときにはドタキャンされることもあって、予定を立てても、結局流れてしまうことがある。
「仕方ないよね、仕事だもの」と言い聞かせてきたけれど、彼は気にも留めてないよう。

胸のどこかが少しだけ寂しくなる。

それでも彼が好きだから、私はこの関係を大切にしようとしてきた。
愛情を届けようとしたり、
負担にならないよう距離を置いてみたり──

それでも、私の想いは届かない。

そんな彼に、どう接していけばいいのだろう?


こんにちは、カウンセラーの笠井です。

冒頭はたとえ話でしたが、「彼に合わせる恋愛」に苦しんでいる女性はけっこう多いようです。

友人に相談すれば、「そんな男やめときなよ」「もっといい男いるよ」──きっと、あなたの味方をしてくれることでしょう。
でも、あなたは彼を「ダメ男」だと切り捨てて、自分を納得させたいわけではないでしょう。
好きだからこそ、簡単に割り切れないのですよね。

あなたが合わせても、合わせても、彼との関係性が変わっていかないのなら──〝愛されていない〟ように感じて、苦しくなるのも仕方がありません。

どんなふうに自分を納得させようとしても、
「私の想いは、これからも届かないのかもしれない」
「私は、ただ都合のいい女なのかもしれない」
そんな不安や怖れが、あなたのハートに深く纏わりつき、離れません。

そして気がつけば、「彼が変わってくれるのが先か、それとも私の心が折れるのが先か」と、出口のない思考の中をぐるぐる廻るのです。


そして──正直に言えば、私自身もかつて、仕事を第一にしてしまう人間だったのです。

当時は映画制作の仕事をしていて、多忙さと不規則さを言い訳に、彼女との約束を直前にキャンセルすることも多々ありました。1ヶ月以上会えないことさえ、珍しくなかったのです。

でも、今思い返すと──当時の私は、無意識にも自ら「忙しい自分」というポジションを取りにいっていたように思います。
どんなに多忙でも、パートナーとの時間を大切にする同僚はいたのですから。

彼女のことは大切に思っていました。決して冷たくしたかったわけではありません。
ただ、「仕事は何よりも優先すべきもの」という思い込みに囚われ、彼女の心を置き去りにしていることには、全くの無自覚でした。

心理的に解釈すると、当時の私はあることを「怖がっていた」からこそ、彼女を二の次にしてしまったのです。
では、私は一体、何を怖がっていたのか。

当時の私には分かりませんでしたが、ここにこそ、この問題の核心があります。

◆「彼がヒーローになりたい人」という視点

神話学者のジョセフ・キャンベルの言葉に
「男は英雄の旅を生きることで、自分の存在理由を見出す」
というものがあります。

もう少し簡単に、「男はヒーローになりたい」と思ってみてください。

そう見てみると、
──男性がアドバイスをするのは、助けることで〝ヒーローらしさ〟を感じたいからかもしれません。
──仕事の数字や結果に執着するのは、証明こそがヒーローの勲章だと信じているからかもしれません。
──弱さを見せないのは、ヒーローでなくなってしまう不安があるからかもしれません。

私にはこの男性心理がよくわかります。
「あぁ、そうだな」と思います。
あなたの彼にも、そういう一面があるのかもしれないのです。

実は、先ほど触れた「男性がすごく怖がっているもの」こそが、このヒーロー願望と密接に関係しています。

ここを理解することが、「しごと男×合わせる女」という停滞した関係を動かしていく第一歩になります。
イメージしやすくするために、ひとつお話しをしましょう。

◆男性がもっとも怖れていること──ヒーローになれない自分を感じる

平さんが男性心理を語るとき、よく引き合いに出すたとえ話があります。
──それは「桃太郎」。

桃太郎は鬼に勝ったからこそ、英雄として村に帰ることができました。
では、もし彼が敗れていたら──どうなっていたと思いますか?

平さんは、こう教えてくれます。
「もし桃太郎が負けていたら、『どんな顔をして帰ればいいんだ』と恥じてしまっていたかもしれない。故郷に帰ることもできず、そのまま〝さすらいの桃太郎〟になっていたんじゃないかな」

この話が伝えてくれている本質は──
男性は「ヒーローでありたい」生き物だということ。

だからこそ、その逆を突きつけられたとき──
「ヒーローになれなかった」自分を受け入れられず、みんなの前から隠れてしまうのです。


私にも、15年ほど、この「さすらいの桃太郎」のような時期がありました。

父は学者で、企業でその道のエキスパートとして評価され、大学教授に招かれた人でした。
私は中学受験に失敗したころから、心のどこかで「到底、父ほどにはなれない」という無力感を抱えていたのだと思います。

私にとって、それは心の深いところに押した「ヒーローになれない」烙印だったのかもしれません。

私の〝さすらいの旅〟は、父とまったく反対の世界に飛び込むことでした。
それは、水商売の世界であり、のちにクリエイティブな映像制作の世界でした。

私は、生きる世界を変えてなお、ヒーローへの再起を望んでいたのかもしれません。
そして、気づくと「忙しい」生き方の中に身を置き、そこから下りることは容易ではありませんでした。

次回、中編へ続きます

最後は私の話をしましたが──そんな時期に出会った当時のパートナーたちには、「自分の都合を押し付けてしまった」と、本当に大変な思いをさせてしまったと、今では思っています。

もちろん、彼が仕事に没頭する理由がすべて「ヒーローになれなかったから」というわけではありません。
実際、大変な仕事というのはあります。仕事を生きがいにしている人だっているわけです。
問題は、彼が仕事を理由にして、あなたを近づけないようにしてしまったときです。
これは男性の深い部分にある心理ですから、おそらく、あなたの彼自身も無自覚なはずです。

大切なのは、彼の心の根っこにそんな「戦い」があるのかもしれない──と、一つのエッセンスとして捉えてみること。
それだけで、彼を見るあなたの瞳に、少しだけ温かな光が灯るはずです。

中編は、
「彼はなぜ、愛し合っているあなたから距離を取ってしまうのか」
についてお話していきます。

それでは、お楽しみに。

笠井 大雅


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